滑り臺の姉妹

滑り臺の下に、姉妹がゐる。妹を登らせようとする、五歳くらゐの姉。必死に登らうとする三歳くらゐの妹。鉄パイプで出來た滑り臺の梯子と挌鬪する姉妹。その父と兄は、同じ公園で野球をしてゐる。
2mくらゐの梯子。私が三歳の女の子を抱へ上げられない高さではない。「登りたいの?」――その一言が、出ない。變質者と思はれたら――「パパに登らせて貰ふから」と斷られたら――。悶々とした氣持で暫く姉妹を見詰め、私は歸つた。多分、彼女は父親に登らせて貰つたらう。
「登りたいの?」――その一言が出なかつた。或は幸せなことなのかもしれない。