犯罪と防犯

どうも世の中では性犯罪を他の犯罪と分けて考へるのが一般的なやうですけれども、これは危險な考へ方ではないでせうか。例へば少し前のTV番組で田嶋陽子先生が、警視廳のウェブサイトで

混んでいる電車、乗車場所には要注意
便利な乗車場所(階段や改札の付近など)は混雑すると同時に、痴漢が潜んでいる可能性があります。できれば避けましょう。
周囲に対する警戒を怠らない
注意してみると、ホーム上をうろつく不審な人がいることがあります。
  • すいている電車が来たのに乗らない。
  • キョロキョロと周囲を見回して物色している様子。
  • さっき、電車に乗っていったのに反対の電車で帰ってきた。

不審な人の近くは避けるようにしましょう。

通勤・通学時間を変えてみる
いつも同じ場所、同じ時間に乗る人を狙っている痴漢もいます。時には乗る時間や車両を変えてみましょう。
混んでいる電車には一人で乗らず、友達などと一緒に乗る
連れのいる人には痴漢も手を出しにくいそうです。:どうしてもラッシュに乗らなくてはならない学生さんや会社員の方は、時間や方向の近い人と一緒に乗るようにしましょう。

と云ふやうな事が書かれてゐるのを指摘なさつて「どうして被害者の方が、便利な乘車場所を避けたり周圍に警戒したりと癡漢に配慮するやうな事をせねばならぬのか」「癡漢の方に問題があるのだから、男達に『癡漢をするな』と言ふのが先でないか」と云ふやうな批判をなさつてゐたのですけれども、全く的を外してゐると思ひます。例へば、詐欺と云ふ犯罪を考へて頂きたい。詐欺には、電話相手を信用しないとか、業者の言つてゐることを鵜呑みにしないとか、兔に角被害者側が氣を附けねばなりません。「詐欺を働くな」と呼掛けられて詐欺をやめる詐欺犯等ゐないでせう。それは、癡漢と詐欺だけに言へることではありません。全ての犯罪に對する防犯がさうです。防犯は受身なのです。
また、性教育では子供達に「變な事をされさうになつたら抵抗せよ」と教へるやうですが、全く驚くべきことです。性犯罪が殺人にまで至る例がありますが、かう云ふ例は大抵、抵抗されたことに逆上した犯人が起すのです。近くに大人がゐれば助けを求めるのが一番でせう。が、さうでも無い場合、抵抗は無意味どころか逆效果となりかねません。例へば強盗を想像して頂きたい。鉄砲を持つた犯人がこちらにそれを向けながら「金を出せ」と要求してゐるとして、あなたは「やめてください」「誰か助けてくれ」と言ひますか? そんなことをしたら何をされるか分つた物ではありません。一旦受身になつて要求の通り金を出す他ありますまい。無茶な抵抗ほど危險なのです。性犯罪ではありませんが、身代金目的の誘拐で誘拐された男兒が、犯人の言ふことを良く聞いたので無事に保護されたと言ふ話があります。
餘談ですがもう一つ二つ附加へて置きませう。アニメや漫畫を規制する事で性犯罪を止められると考へる規制派は、何故プラスチックを規制すれば象*1の濫獲が減ると考へないのでせう。また、少し前の某新聞の投書欄に「アメリカでは雜誌に猥褻な本の廣告は載らない、日本でも性情報を自主規制しろ」と云ふやうなのがありました。また、ミーガン法のやうなのはアメリカにも韓國にもあるのだから日本にもあるべきだと云ふやうな意見もあります。馬鹿な事を云ふものではありません。性犯罪の發生がアメリカや韓國より少い我が國がどうしてアメリカや韓國の眞似をせねばならぬのです。
かう云ふ處にも性犯罪と他の犯罪を分けて考へる考へ方が染み出てゐます。これで犯罪に關してまともな對策が取れるとは思へません。

*1:プラスチックは象牙の代用品になる