漢字制限

所詮漢字制限など不可能です。「叛」も「反」も「ハン」なのだし、何となく似てゐる*1「叛亂」は「反乱」、「謀叛」は「謀反」で良いと言ひますが、それでは「叛*2き亂す」「叛きを謀*3る」といふ訓讀が出來なくなり、文字から意味を推理することが出來なくなりませう。また、「犯罪」も「反罪」、「鈑金」も「反金」で良いことになりませうが、「反罪」では「罪を犯す」が分らなくなり、「反金」では「金を反らせる」といふことになつてしまひます。
榎村陽太郎といふ醫者が「稽古」は「啓古」で良いと言ひました*4が、それでは「古を啓*5く」となり、古いものから習ふのではなくて、古いものに教へるといふ全く逆の意味になつてしまひます。
「漏えい」「ら致」のやうな交ぜ書きが汚い、と感じるのも私だけではありますまい。
大體、人々は放つておけば矢鱈と難しい漢字を使ふといふ考へがをかしいのです。漢字を習ひたての子供ではありますまいし、自分が昨日今日辭書を眺めてゐて偶然知つたやうな難しい字や單語を遣はうとは、普通思はないでせう。人は暴走機關車ではありません。しかし、表音主義者は人を暴走機關車か漢字を習ひたての子供だと思つてゐるので、自分達は漢字制限といふストッパでそれを止めた英雄だと思つてゐるのです。

*1:「反對」といふ單語があるやうに、何か良くない感じがする

*2:そむ

*3:はか

*4:榎村陽太郎『日本簡体字のすすめ』

*5:ひら